ラパン連載「田代先生の楽しい地理教室」 |
写真や図が沢山ありますが、それは実物を見て頂くとして、原則として、テキスト(文字)だけご紹介します。 なお、元原稿ですので、掲載時には多少変更があります。ご了解下さい。 |
第1回 |
●はじめに 旅は好きなのに、地図は嫌いという人が多い。そもそも地図を見ない人も多い 。何故だうか。学校の社会科、特に地理で難しい投影法の話(メルカトル図法、 ○○図法)をするのでいやになるのだろうか。地名テストがあるから地図を見るのがいやなのだろうか。 でも地図は本当はもっともっと楽しく面白いもののはずだ。だから「ラパン」誌も復刊できたのだ(^_^;)。 私は二〇数年間、高校で地理を担当してきた。子どもの頃から地図が好きで地理学科に進み地理の教師になったので、生徒みんなに地図を好きになって貰おうと詳しく教えてきた。しかしそのために、かえって地図嫌いを増やしてしまったのかもしれない。少々責任転嫁をすれば、学校の教科書には、元になる指導要領があり、文部省の検定がある。そのために、楽しく自由に書くことができない。 幸い本誌に文部省検定はないので、学校ではできない楽しい地図のお話をしていきたい。 ●デートと地図 家内がまだ彼女だった二〇数年前、しばしばデートをしていた。私は地理学科 の学生だったので、二百数十回のデート場所を地図上に表現して「デートマップ 」を作ったことがある。彼女は埼玉の大宮、私は横浜南部の金沢文庫に住んでいた。二〇万分の一地勢図「東京」の上と下だ(教室では、上と言わないで北、下と言わないで南と言いましょう、と注意するば、ここではいいよね)。 地図上にドット(点)を落として行ったところ、ドットが集中したのは東京駅の周辺だった。大宮と金沢文庫のほぼ中間が東京になるから、平等な関係を大事にしようと言っていた(かな?)当時の二人に相応しい結果が地図でも裏付けられたといえよう・・・。 なんて事をこの「デートマップ」から言えるだろうか。実は貧乏学生で、皇居前の公園ぐらいにしか行けなかっただけなのだ。 できごとを分布図にすると、思いがけない因果関係が分る場合がある。また、 頭では漠然としか分っていないことを、地図で図的に表現して見ると、なるほどそうかと理解が深まることがある。といって地図にすれば何でも分るわけでもない。「デートマップ」の解釈の当否は皆さんにお任せするとして、くれぐれも、かつての彼女(彼氏)の分布マップなどを作って揉め事を起こさないようにね。 ●究極の地図の使い方 地図を使う目的は何だろうか。知人は「好きな人の住んでいるところの地図を広げて思いにふける」とロマンチックな使い方をあげてくれた。 実用的な目的の一番は、目的地に到達するための道順を知ることだろう。未知の案内つまり道案内である。だから市街地図帳、道路地図帳は、地図会社のドル箱である。 私は山歩きを趣味としているが、本来山では地図は不可欠だ。本来と書いたのは、最近は、地形図もガイドマップもガイドブックも持たない登山者が少なくないからだ。確かにおもな登山道にはうるさいくらいの標識があり、天気がよければ、道案内としての地図は不要かもしれない。 しかし、山の天気は変わりやすし、どこでも標識があるわけではない。自分の目でしっかりと現地を確かめ、地図上で位置を知る必要がある。とはいえこれがなかなか難しい。その理由については、別の機会に説明するが、心理的要因も大きい。冷静さを失うと地図があっても判断がつかなくなってしまうからだ。 私自身、何度も“修羅場”をくぐっている。ここでは恥かしくて書けない極めてポピュラーな山で“遭難”しかかったことがある。「地図の専門家 リュックに沢山の地図を入れたまま現在地が分らなくなり遭難」。こんな新聞記事が思わず浮かび、自らの名誉のためにもと麓に辿りついたことがあった。 地図の究極の使い方、それはビバークした際に暖をとることであり、いよいよ最後には遺書を書くことである・・・。昔、先輩から聞いた話であるが、“遭難”しかかった時には、現実味をおびてきたのが恐かった。 ●紙地図から電子 地図の時代へ 地図と言えば紙に書いたもの、という説明が通用しない時代になってきた。 コンピュータの普及による電子地図時代の始まりである。その代表がカーナビ。 私は車も免許もないが最近のカーナビの正確さに驚いたことがある。常に自分 を地図の中心におくことができるカーナビは、紙地図では実現できなかった新たな世界を開きつつある。 パソコンソフトでも電子地図が一つのジャンルを築いている。パソコンの携帯化が進むにつれて、アウトドアと結びついた電子地図の利用は急激に進むだろう。紙地図がなくなることはないが、ディスプレイで見る電子地図の動向も見逃せない。 |
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第2回 右も左も分からないというけれど−−方位の難しさ |
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第3回 日常生活の中の方位 |
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第4回 まずは前回の宿題の答え合せから。 宿題は「二万五千分の一地形図と五万分の一地形図とではどちらが大縮尺だ ろうか」だった。正解は二万五千分の一。五万分の一にした人はいないだろうか。もし二分の一と五分の一ならどっちが大きいだろうか。躊躇なく二分の一が大きいと答えるだろう。なら数字は違うが二万五千分の一と五万分の一だって同じ。縮尺は縮めた結果なのだから、分数で考えなくてはならない。「大縮尺」は縮尺が大きいということ。だから、二万五千分の一地形図の方が大縮尺なのだ。 ただ、五万分の一にしたい気持ちはわかる。それは大縮尺を「縮める度合いが大きい」と考えてしまいがちだからだ。でもくどいようだが、縮尺は小さくした結果なのだ。必ず分子が1の分数だから、その大ささは、普通の算数と同じで考えればよいのだ。 ●地図は必ず縮小されている。 地図の根本的特徴の一つがこの縮小されているということだ。そしてどのように縮小されているかを示すのが縮尺だ。地図上の長さ/現地の長さ=1/A のように分子が1の分数で表わす。1:Aの比の形も同じだ。ヨーロッパでは、「2cmが1km」と言った添書きもしてある場合が多い。 私はいろいろな地図を集めているが、まだ一分の一の日本地図を見たことが ない。また一分の一の地球儀も。もしあれば置場所に困るね。 平面に表わす、そして縮小してあるということ、これが地図の根本的特徴だ。 ●縮尺の比較に要注意。 気をつけなければならないのは、縮尺の大小の比較。「答え合せ」の説明で 分かっていただけただろか。縮めた結果が縮尺だから分数の大小で比較する、 このことをしっかりと頭に入れておいて欲しい。では練習問題。一万分の一地形図と二万五千分の一地形図ではどちらが縮尺が大きいか。今度は一万分の一 地形図の方が大縮尺になる。 大縮尺の方が詳しい表現になる。小縮尺の方が広い地域を表わせる。これも 大丈夫だね。 この大小の比較は“間違えやすい地図の話題”のトップにくるものといってよいだろう。十数年前、ある雑誌の投稿欄で「地図論争」をしたことがある。 私に対して居丈高に非難をした国際問題評論家氏は、縮尺の大小を間違えて、墓穴を掘ってしまった(実はどうでもよいことなのだが、地図のことは分かっている、と言っておきながら、大小を間違えるとカッコはよくないだろう)。 またパソコン通信の場でも、時々、あっ、勘違いしているなという表現を見かけることがある。そういう時は、婉曲に知らせるが、この間違いの指摘というのが難しい。あっ、そうか、と素直に認めてくれる場合がほとんどだが、中にはそんな基本も知らないのかと恥をかかされた、と思うのか、それ以降やってこなくなる人もいる(理由については想像だが)。皆さんも、もし身近で大小の間違いに気づいたら、「ラパン」にいい解説があるよ、とだけ言って直接は指摘しない方がよいかもしれない(^_^)。 なお、以上は二つを比較した相対的な縮尺の大小だが、いわば絶対的な区分もある。 大縮尺:五千分の一より大きいもの。 小縮尺:二〇万分の一より小さいもの。 中縮尺:その間。 これは日本での一般的な区分である。これによれば二万五千分の一地形図は中縮尺ということになる。 ●縮尺通りになっていない世界地図 さて、日常の場で縮尺が実用的に使われるのはどういう時だろうか。実際に歩く(走る)道のりを知りたい時だろう。地図上で長さをはかり、縮尺の逆数(分母の値)をかければ実際の長さがでてくる。 ところがこの方式は世界地図の上ではできないのだ。 試しに地図帳を開いて、世界地図を見て欲しい。1:100,000,000 などと縮尺が書いてあるだろう(B4サイズに収る世界全図の縮尺はおおよそ一億分の一である)。その縮尺が問題なのだ。 例えば図のサンソン図法の場合。これは原図上では二億五千万分の一の地図である(印刷では縮めてある)。しかし、この長さ通りの場所はわずかしない。 というのも経線を見て欲しい。場所場所によって長さが違うではないか。経線は地球上ではすべて同じ長さのはずだ(だから地球は球になる)。それがご覧の通り。中央経線(真ん中の直線)と周辺では倍以上も違う。縮尺の逆数をかけると、どの経線をとるかによって様々な大ささの地球ができてしまう。 二億五千万分の一の意味は何なんだ!と大きな声をあげたくなってしまう(ってことはないか)。 こういう小縮尺(大縮尺ではない)図では、書いてある縮尺は、実は場所場所によって異なっており、実用目的には使えないシロモノである。二億五千万分の一とあっても、このサンソン図法の場合、それがいえるのは「中央経線と緯線」だけで、それ以外はその縮尺通りではない地図なのである。 では何故平気で二億五千万分の一と書いてあるのか。それは暗黙の前提があるのだ。そのためには縮尺の厳密が必要になる。 縮尺とは、地図を作るもとになったと仮定した地球儀と地球の大ささの比率なのである。 地球があって地図ができるのではない。間に地球儀が入るのである。“イデアとしての地球儀”である(気にしないで読み飛ばして下さい)。この地球儀という概念を用いれば、地図に関する諸々のことがらを矛盾なく説明できる。 例えば、面積の正しい地図として正積図法がある。面積が正しい、とはどういうことか。実際の面積が地図に表わされている・・・。まてまて、そんなことは不可能だ。それは一分の一の地図になってしまう!正積図法は、(地図を作るもとになった)地球儀の表面積と地図上の面積が等しい地図なのだ。 いささか揚足取りのようだが、主旨はわかっていただけるだろうか。 立体である地球儀を平面に写すのだから、必ず歪(ひず)みが生ずる。長さや面積が地球儀上の通りにならなくなってしまう。それは宿命だ!しかし、その地球儀と地球の大きさの関係はぴたっと一つに決まっている。これが縮尺の厳密な定義なのだ。 実用的には、世界地図の上では、普段行うような方法で距離は測れないとい うことをしっかり理解して欲しい。仮に縮尺が明記してあっても、だ。また距離が正しく表現されている正距図法の場合も、それができるのは限られた場所だけなのだ。 やれやれ、今回もまた難しかったかもしれない。だんだん「楽しくない地図教室」になってきているような・・・。でも他では聞けない話と思ってもうしばらくお付き合い下さい。 次回は、難しいついでに、今回ちょっとでてきたので、皆がいちば〜ん好きでない図法(投影法)の話です。 |
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第5回 今回は地図投影法です。難しいぞ!!! |
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第6回 地形図の外の面白話 前回はちょっと難しかっただろうか。パソコン通信の知人は次のような書込みをしていた。 「「田代先生の地図教室」はもう私はとてもついていけません。第一、標題が「難しいけれど面白い地図投影法」ですよ、先生御自ら「難しい」とおっしゃるようなものはとても無理です。私、中学校から地理は落第すれすれでしたので……。(^^;)」 Eさん、今回は「易しいけれど面白くない地形図」だから、いや違った、「易しくて面白い地形図の外側の話題」なので、お付き合い下さい。 ちなみに、10月に行われた地理Bの教科書検定の申し渡しでも、私が書いた 地図投影法の部分について、文部省から「詳しすぎる、もっと抑制的に書くように」、という注文がついてしまった。地図投影法はやはり世間では圧倒的小数派のようである。 ●地形図にある「すかし」 まず実物の地形図を広げてみよう。もし持っていない人は、コーヒーを一杯飲むのをがまんして、地形図を一枚買いましょう。消費税が5%になっても、二万五千分の一地形図の定価は変らず270円。何とも安いものではありませんか。 さて、その地形図を明るい方に向けてみよう。上と下の余白の箇所に、何か すかしがみえないだろうか。上下にそれぞれ2つずつ、見覚えのあるマークが 浮かぶ。そう、三角点記号のすかしが入っているのだ。 ん、私のは一つしかない? 運の悪い人は、一つだけなのだ(これは冗談、地形図のサイズとすかしの間隔から、何枚かに一枚は、一つだけになってしまう。大凶がかえって貴重なように、三角点すかしが一つだけという地図をマニアは好むかもしれない)。 お札にすかしが入っているように、これは正式な地図用紙を使っていますよ、 という証明と考えてよいだろう。 授業でも、大人を相手の地図の話の時でも、最初にこれをとりあげることにしている。いい年齢をした大人が、両手で地形図を持って明るいほうにかざして、「あった、あった」と喜ぶ様は、何とも微笑ましいものだ(と思うのは私だけ?)。 ●地形図の四辺の長さを0.1mm単位で知る。 すかしの次に行うことは、地形図一枚の長さをぱっとみて0.1mm単位まで当てることだ。 その前に地形図のサイズについておさらいをしておこう。 二万五千分の一地形図は柾(まさ)判という縦46cm横58cmのサイズで、日本独自の規格である。 この中に、少し余白をとり、地図の“本体”が描かれている。その四辺になっている緯線と経線を図郭線と呼んでいる。その各辺の長さを、定規も使わないで0.1mmの単位まで知る事ができるのだろうか。先生のようにプロになると一目で分ってしまうのですよ(^_^)。 生徒に配った地形図を、「ちょっと貸してね」といって見つめる事3秒。これで正確に分ってしまう。 例えば、たまたま手にした「紀伊勝浦」は、上辺が46.35cm、下辺が46.40cm、右辺・左辺とも36.95cmである。 生徒は、あらかじめ覚えているのでしょう、というが、「では貴方のを見せて」と言って、3秒・・・。「疑うなら定規で測ってご覧」と自信たっぷりに言う。 しかし、その時、生徒の鋭い一言。「あっ、先生の目がおかしい。四辺ではなく、地図の右斜め下を見ている!」。 ウーム、視線の不自然な動きがばれてしまったか(実はわざとばれるようにしているのです)。 地形図の右側の余白の部分に、地図記号や、諸々の説明が書いてある。その一つに行政区画という欄があり、ここに、四辺の長さがしっかり書いてあるの だ。 この欄があることは知っていても、数字が書込んであることはあまり知られていない。 紙は湿度によってわずかだが伸縮してしまう。そのため、厳密に地図上で測定をしなくてはならない時に、理論上の両辺の長さ(緯度差あるいは経度差)がわかっていなくてはならない。その長さが分っていれば、仮にその時の測定値とずれがあっても、対応できるからだ。 こんな細かいことが必要になることは滅多にないだろうが、二万五千分の一地形図の場合地図上の1mmが現地の25m。0.1mmでも2.5mになる。土地一升金一升のような場所では、0.1mmの違いも無視できないかもしれない。 で、これがぱっと分ってだから何なの、と言われると困るのだが・・・。 ●余白の部分を大切に 地図の本体の外側の部分をとりあえず余白と書いてきたが、図郭線およびそ の外側に書いてある記号や、この行政区画、その他諸々の説明を総称して「整 飾」と呼んでいる。 その分だけ地図が大きくなるので、ここを切って捨ててしまう人がいるそうだが、それはいけません。地図記号以外にも、測量されたのはいつか、磁石の針は何度西に偏るかなどといった、大事な情報が書かれているからだ。 さきの、四辺の長さを瞬時に知るという“プロの技”も、実はこの整飾の大事さを理解してもらうための高等テクニックだったのです。地形図は、隅から隅まで余白まで、情報ぎっしり玉手箱なのです。 ●おまけ “プロの技”を更にもっともらしくするには、上辺と下辺の長さの違いを強調するとよい。「紀伊勝浦」の例でわかるように、だいたい0.5mm上の方が短い。一見長方形のように見えるが、厳密には上が短い、台形のような不等辺四辺形なのだ。あっ、また難しい話になってしまった。 一枚の地形図ではわずかの違いだが、北海道と鹿児島を比べると、8cm近い 差がでてくるので、いやでも違いがわかる。 さて、なぜ同じ基準で作ってある地図なのに、北の方が短く、南が長いのか、 これはEさんでもお分りですね。 |
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第7回 地図を使って山の名を確かめる(前編) 冬は太平洋側の各地では山がよく見える(日本海側の皆さん、ごめんなさい)。自宅のある横浜郊外から、富士山が見える日数もぐっと増えている。 さて、山が見える時、その名前を知りたいと思うのは、自然な欲求だろう。素敵な人をみかけて、名前を知りたくなるのと同じだ。K子さんと聞いて、いい名前だな、H男さんというのか、素敵だな、と思うだろう。 山だって、名前が分れば親しみが増す。何故その名前がついたのか、それを手がかりにもう一歩踏込んでみたくなる。相手を理解する極めて大切な出発点が名前を知ることなのだ。 その山名について、地図を使えば面白いようにわかるのに、どうしたことか山の本にも地図の本にもそのことが書いてない。 最近、地図についてわかりやすい本が相次いで刊行されているが、何故か山の名前を知る方法については記されていない。 ということで、今回は、山がよく見える時期にちなんで、地図を使って山の名前を確かめる方法のお勉強です。 ●「山座同定」とは まずは用語の確認から。地図などを使って、見えている山の名前を知ることを「山座同定」という。山座でなく山岳でもよいが、この世間では、山座というのが普通だ。その方がちょっと通っぽい。山を数える時に「座」を使うので、そこから来たのだろう。同定は広辞苑にも出ている。「同一であることを見きわめること。生物の分類上の所属を決定すること」。山座同定という言葉を最初に使った人は誰かを調べたことがあるが、分らずじまいである(この分野に興味のある方は探ってみて下さい)。 ●山座同定の方法(現地編) 山座同定は現地で行う方法と机上で行う方法があるが、まず現地編から紹介しよう。 まず磁石で方位を確認する。北の方向が分ったら、それに合せて地図を置く。その際、磁石の指す北は本当の北に対して数度西に偏っている(西偏)ことを忘れないように(地形図にその値は記されている)。 そして、知りたい山が北から、或いはすでに知っている山から何度離れているかを調べ、その角度を地図の上に記して、その方向にある山にアタリをつけるというわけだ。 ええ!、面倒臭そう、と言っているのは誰かな。確かに角度を測るというというのは厄介だ。しかもそれを地図の上に書かなくてはいけないのだから。 普通は、先生もそんなに厳密なことはしていない。見知っている山と地図上のそれが一直線になるように地図を合わせて、あとはあの山はこの方向に見えているから、地図だとえっと、この山かな、という程度にしている。写真をしっかりとっておけば次回に述べる、机上作業で面白いようにわかるのだから、天気が変らない内に、しっかり写真を撮っておいた方がよい。 ●角度測定グッズその1 とはいえ、現地でじっくりと確かめたいという時もあるだろう。そういう時に、正確に角度を測定するにはどうすればよいだろうか。 普通の磁石では角度の開きを読み取るのは案外難しい。コンパスの目盛は上から読み取るわけだが、そのままだと、山の方向とコンパスの目盛を対応させにくいからだ。 オリエンテーリング用のコンパスには、向きを知る「進行線」や回転する度数目盛がついているが、これも慣れが必要かもしれない。 レンザティックコンパスといって、蓋の 中央に照準線や角度を読み取るためのレンズがついているコンパス(だからレンザティックコンパスと言う)があるが、必ずしも見やすくはない。 そうした中で、単眼鏡を覗けばその中にコンパスが表示され、一発で目標の山が見えるという優れ物がある。それがコンパスグラスである(写真)。レンズは明るく倍率も2倍なのでとても見やすくなっている。真ん中にある山の方位角がいやでもわかってしまう。その気になれば0.5度単位まで測定もできる。数字は北が0度で右回りに90度(東)〜180度(南)〜270度(西)となり360度は0度で北になる。 この角度をもとに地図上に線を引っ張れば、あっ、これが甲斐駒ヶ岳か、ということがわかるという次第。 とりあえず気になる山の角度を控えておき、あとでゆっくり地図上で作業をしてもよい。 惜しむらくは価格がちょっと高いこと。山座同定の必需品なので、貯金をして、あるいは「大蔵大臣」にかけあって、何とか入手しておきたい。 ●角度測定グッズその2 コンパスグラスが無理という向きには、耳寄り情報をお教えしよう。手製の「角度測定板」である(図)。 「基準線」を知っている山に向け、「目盛板」を板に対し直角におこしておけば、知りたい山と何度離れているかがすぐに分る。 大事な点は、この測定板を透明にしておくこと。そうすれば改めて分度器を使う必要はなく、地図の上に重ねるだけで、必要な方向を見ることができるのだ(書いていなかったが、測定した角度を地図の上に記すには分度器が必要なる)。文房具店で透明な下敷を買って、これに分度器の九〇度分を貼りつけ(コピーでよい)、画用紙で作った「目盛板」をくっつければもうできあがり。 磁石ではないので、北からの角度を測ることはできないが、二つの山(地点)の角度をはかるには大いに役に立つ。 ●山座同定に使える地図 この話をする時にいつも言っているのだが、 是非用意しておきたいのが、国土地理院発行の20万分の1地勢図だ(5万分の1地形図と比べるとどっちが大縮尺かな?)。 この地勢図は六色刷りで、山などにはかげをつけて立体感がでるようにしてあるので、地形の様子がわかりやすい(だから地勢図という)。大ささは地形図と同じだ。 必要な図幅は、もちろん見る場所によって違うが、例えば東京方面から丹沢や奥秩父、更に南アルプスを捜したいというなら、「東京」と「甲府」の二枚で十分だ。 「富山」「高田」「高山」「長野」「飯田」「甲府」の六枚を貼り合わせれば、ほぼアルプスの全域が収り大変な迫力だ。 大手の書店でないと取り扱っておらず、なかなか目にする機会がないかも しれないが、現地でも室内(机上作業)でも、展望のためには必需品の地図で ある。一枚320円は絶対お得。書店になければ注文できるので、是非実物 を入手して欲しい。これが次回までの宿題です。 |
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第8回 地図を使って山の名を確かめる(後編) 前回の宿題、二〇万分の一地勢図を入手されただろうか。国土地理院発行の地図類は、消費税が五%にアップされても、本体価格を値下げして、以前と同じ価格になっている点でも優れ物だ。ところが、書店の中にはそのことを知らないのか、従来価格に二%上乗せして販売しているところがあるようなので、要注意だ。 さて、今回は、山座同定の机上作業のノウハウをご紹介しよう。 ●地図と写真を利用する方法 あらかじめ撮影しておいた写真、とくに横に繋いだパノラマ写真と地図を使えば、面白いように山名がわかる。私はあちこちでこの方法を述べているが、前回も書いたように、山や地図の本で紹介されることがない。なら、未来の日本を背負う青少年にぜひ分って欲しいと思い、地理の教科書に入れる事にした。文部省もその意義を認めたのか(?)その部分はノーチェック。かくして高校地理教科書に「地図と写真から山名を求める方法」が掲載されることになった。図がそれである。 文章にするとややこしいので、まずは図をじっくり眺めて頂きたい。 ●要するに比例関係で・・・ これについての一番新しい解説を、『パソコンで楽しむ山と地図』に書いているので、それをもとにご紹介しよう。 図の上で、撮影地点と分っている二つの山を結び、その角度を分度器で測る。次に、写真の上で、あらかじめ分っている二つの山の間の長さを定規で測る。これで二つの山の間の角度と長さの関係を求めることができる。割算をすれば地図上の角度一度が写真上で何cm(mm)、写真上の一cmが地図上で何度の角度になるかの比例関係がだせる。 写真上で二つの山の間にある山Aを調べたいという時の方法はもうお分かりだろう。A山あるいはB山からの長さを測る。それを先の関係を利用して角度に換算する。そして地図上でその角度をとり、視点から直線を引けば、その線上にC山と思われるピークが出てくるはずだ。 ところで、角度を分度器で測るというのは実際にはかなり面倒なものだ。そこで角度と長さではなく、「長さと長さの比例関係」で考えてみよう。 地図上で視点からわかっている二つの山に直線を引き、二等辺三角形を作る。その底辺の長さと写真上の長さの比例関係を利用するのである。地図上の長さが写真上では何cmになるか、また写真上の長さが地図上では何cmになるかというのである。これなら定規だけですむし、二等辺三角形は自由に設定できるので、比例関係の換算も楽である。 その二等辺三角形で必要なのは底辺である。底辺の長さが写真上の長さと同じになれば、地図上と写真上との換算が不要になるから大変便利だ。三角形の“相似" ということを考えれば、どこに底辺をもってきても良いわけだ。 こう書くといかにも難しそうだが、実際にやってみると、とっても簡単(本当に!)。騙されたと思って是非チャレンジして下さい。 ●数値地図を使う 地図は地図でも、パソコン用の数値地図を使って山座同定ができないだろうか。幸いFYAMAPには素晴らしいソフトが用意されている。その代表が「カシミール」だ(作者はDAN杉本さん。本誌一九九七年九月号参照)。まるで写真かと思うような素晴らしい山の絵を描くことができる。これに山名表示までされるのだから嬉しい。あっ、この山だったのか、とすぐに分ってしまう。そのデータは、山岳展望ソフトのはしりの「やまおたく」(山が模式的に三角形で表示される。作者はVERDEさん)用の地名データを利用している(データは地図から読み取って追加できる)。 カシミールはどんな場所からでも自由に描けるので、山座同定以外に、写真の撮影地点を確認することもできる。車窓から写した場合、撮影地点を正確に知る事が難しい。カシミールで色々な場所から描いていけば、写真とぴったり一致する画像になる所がある。そこが撮影場所ということだ。マニア向けの利用法だが、実に役に立つ。 ●番外−−本で調べる 地図を使うのは面倒、パソコンもない、という人には、ちょっとずるいけど、“アンチョコ”を見るという方法がある。詳しい山名注記入りの展望図集を見て、その山あるいは近くの山からの展望図と見比べるのだ。見る場所が違うと当然違う景色になるが、遠くの山はそんなには違わないので、大体の見当をつけたいならこれでもOKだ。そんな便利な本が『展望の山旅』(実業之日本社)だ。正、続、続々編の3冊出ている。あれれ、どこかで見たことがあるような・・・。私が編著者になっている本でした。最後は宣伝になってゴメンナサイ。 次回は、市街地の地図がテーマです。田代先生、神田で道に迷う!の巻。乞うご期待。 |
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第9回 田代先生、あちこちで道に迷う!その1 前回の予告では、「田代先生、神田で道に迷う!」だった。それが「あちこち」になっている。しかもその1となっているのはどうしたことか。まさか神田以外でも迷っているのではないだろうね。実はそうなのだ。予告を書いた後、神田以外でも大胆に迷ってしまったのだ。ただその理由は地図に原因がある。ということで、これからしばらく市街地の地図について見ていこう。 ●神田で迷った顛末 神田神保町から2、3分という事務所で夜会議があった。いつもは事前に地図帳でチェックするのだが、仕事が長引いたので、住所だけ確認して学校を飛びだした。 ケチの付け始めは、地下鉄。乗り換えの時に反対方向に乗ってしまう。地下鉄の難しさについては別の機会に述べることにしよう。 ともかく神田神保町駅には着いた。早く地上に出ようと改札口に一番近い階段を上ったのがよくなかった。電柱に付いている住居案内を見ると、2丁目に行きたいのに1丁目になっている。道を渡って2丁目の区域に入る。15番地がある。13番地がある。目指すは12番地なので、やれやれと思ったら飛んで11番地だ。あたりを見まわしても12番地がない! 予定の時刻を少し過ぎているので、“定刻主義者”を自認する私としては、焦りが募る。 こうなったら地元の人に聞くのが一番、と思ったが人がいない。やっと通りがかった人に尋ねたが、やはり無理だ。宅配便を扱うお店を見つけ尋ねたところ、この一帯は道路をはさんで偶数と奇数に分れているとのこと。12番地は靖国通りの反対側になると教えて貰った。これではいくら探しても無いはずだ。 誌面がないので省略するが、その後も大変。 結局夜の神田を30分以上さまよい歩いて(いや走って)ようやく目的地に着いた。「地理の先生の土地勘はこんなものですか!」と言われてしまった。何だかんだと弁解したいことはあったが小さくなっているしかなかった。 ●迷った理由 今回迷った理由は、地図を持っていなかったこと。地図を見れば、数字が飛んでいることは分かったはずだが、町中でもあり地番は連続しているはずだから地図はなくても大丈夫と思ったのがまずかった。また人に地番で尋ねても分かるはずはない。自分が聞かれた場合もそうだ。果たしてそれで教えて貰えるか、夏休みの宿題にしようと思ったほどだ。 ただ、地番の付け方は、偶数・奇数に分けるという特別な場合は別にしても、分かりづらいものが多い。またこの付近は「住居表示」がなされていない地区でもある。頭に神田がつく町名が沢山あるが、これらがそうだ。「地番の混乱」と「町名のわかりにくさ」の解消を目的に「住居表示に関する法律」が制定されたが、これについての問題も多い。市街地の地図を考える際に避けて通れないテーマであるので、いずれ話題にしよう。 ●新宿御苑に辿りつけない! 桜を見に新宿御苑に初めて行った。お上りさん宜しくガイドブックを片手に新宿駅南口から向かった。新宿御苑は目の前にあるようなのに、地図を見ると一番近い入口は千駄ヶ谷門になっている。変だなと思ったが、こんなところで聞くのはちょっと恥かしいので、地図を信じて千駄ヶ谷門へ「転進」した。 入園し案内図を見ると、やはり新宿門がある。何という大回り! 公園などの出入口を明記するのは地図のチョー基本だが、この地図はそれができていなかった。何か変だぞという素朴な感覚より地図を優先したための失敗だった。“地図を信じてはいけない”。地図と付き合う上で忘れてはいけないことの一つである。 なお、この新宿御苑案内図には問題がある。 (1)方位記号に北(南)の文字がない。 これだけではどちらが北かわからない。上を北とするのが普通だろうが実は逆だ。 多くの人が新宿駅から来るということを前提に地図を作っている(機械的に北を上にしていない)点は評価できるが、その場合は、北がどちらか明確にしておく必要がある。 (2)縮尺のミス。 目盛の数値に単位がない。mが常識かもしれないが、では1:4000は正しいだろうか。目盛を定規ではかったら、2cmが100mになるので、縮尺は5千分の1のはずだ。実害はまずないが、ちょっと注意がたりなかったようだ。* 地図の一番の基本は道案内にある。その役目が果たせない地図が多いのは何故か。地図がよくないのか、使う人間に問題があるのか、それとも・・・。今回の例をもとに、青春時代を道に迷ってばかりいる山尾先生と一緒に次回も考えてみよう。 |
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第10回 番外 こんな地図ソフトがある 今回は「番外」編で、地図ソフトの紹介だ。というのも、今回の原稿締切間際に、ユニークな地図ソフトが発売されることを知り、すこしでも早く皆さんにご紹介したいと思ったからだ(道に迷って、教室に辿りつけなかったというわけではないので誤解なきように)。 地名CD-ROM『地図で見る 日本地名索引』というソフトである(Windows95、NT4.0対応。アボック社77000円+税。8月末まで特別価格)。 ●何ができるか。 ずばり、地名の分布図を作成できるソフトだ。図1を見て欲しい。田代という地名が全国に207あり、それがどのような地域に分布しているかを、地図の上にドット(点)で表示してくれるのである。九州に多いとは聞いていたが(父は九州出身だった)、東北や東海地方にもあることがわかる。この、分布図になる、ということが最大の特徴だ。『地図で見る 日本地名索引』の案内書には、「分布図がポーン」と書いてあるが、確かに非常に簡単な操作で、この図を描くことがで きる。 今まで何らかの分布図を作ったことがある人は、それがいかに大変な作業であるかということを実感されているだろう。所在がわかっていても、それを地図の上に描くのは神経を使う仕事だ。それがいとも簡単にできてしまう。 図●は富士見地名の分布だ。「*」はいろいろな言葉が入ることを示している(富士見町、富士見峠など)。いわゆる「部分一致検索」だ。前後に「*」をつけて調べることもできる。 データは一覧表の形で表示することができるし、図●のように都道府県別に何件あるかといった分析も可能だ。 「合体表示」と言って、複数の分布図を一枚に重ね合せることも可能だ。「〜沢」と「〜谷」は、日本の東西で分布がはっきりと分れるといわれているが、この合体表示をさせてみると、違いが見事にわかる(宿題! 「〜沢」が多いのはどちらでしょう)。 ●使い勝手 Windowsになって使いやすくなったとはいえ、パソコンソフトにはまだ使いにくいものも多い。パソコンとの付き合いはそれなりにあるとはいえ“万年初心者”である私が悩まないで使えるソフトが、使い勝手のよいソフトである(と勝手に決めている)。 その点で、『地図で見る 日本地名索引』は合格。CD−ROMをインストールしてすぐにこの分布図を描くことができた。 検索は、いろいろ条件を設定できるが、とりあえず探したい地名が分かっていれば、その名前を入れるだけでよい。瞬時に結果が表示される。 地図表示の操作も難しくない。ツールバーのボタンをクリックして簡単な操作で、拡大や縮小、移動、描画の条件設定などを行なうことができる。 印刷ももちろんOKだ。 ●元データ ところで、このソフトには約52万件もの地名データが緯度経度付きで(分の単位まで)収録されている。だから分布図表示ができるのだが、その地名収録作業を行なったのが、金井弘夫さん(元国立科学博物館植物研究部長)。20万分の1地勢図、2万5千分の1地形図、さらに参謀本部陸地測量部の「陸測図」すべてにあたり、20年以上かけて独力でデータを作成された。「現代の伊能忠敬」という人もいるが、その苦労を思えばもっともであろう。それらは数年前に『日本地名索引』『新日本地名索引』『地名レッドデータブック』という大部な著作として発行され話題になったので、ご存知の方もあるかもしれない。今回のCD−ROMはそれを全て1枚のCD−ROMにおさめ、かつ地図表示ができるようにしたものだ。「陸測図」には江戸時代からの地名も収録されているので、現代では「消えた地名」を探すこともできる。 * 個人で買うにはちょっと値段が高いが、パソコンを使える環境にあって、地名に関心のある人には得難いソフトといえよう。 この地名データの宝庫を使いこなすのはあなた次第。発行元もあっと驚く分布図を作ってみたいと思う。 発売元のアボック社はホームページは次の通り。 このCD−ROMについての解説コーナーもあるので、興味を持たれた方は覗いて見て欲しい。 http://www.aboc.co.jp/ |
まだまだ続く(^^;
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